原作に取材協力した「パーフェクトワールド」が、映画・ドラマになりました。

車いす生活となった初恋の人との恋愛を描きながら、働くこと、生きることを問いかける、講談社「Kiss」で連載中の原作漫画『パーフェクトワールド 』。作者の有賀リエさんが、弊社代表の阿部一雄をはじめ、車いす生活の方や医療関係者などを取材され、物語は作られています。 2018年10月の映画化、全国公開に引き続き、2019年4月にドラマ化され、話題となりました。原作漫画への取材協力の経緯や、物語を通して伝えたい思いを紹介します。

TVドラマ
「パーフェクトワールド」

ドラマ『パーフェクトワールド』の主人公は、松坂桃李が演じる鮎川樹(いつき)。大学時代の事故で脊髄を損傷し、車いす生活を送る建築士です。生涯一人で生きていくと決めた樹が、山本美月が演じる高校の同級生・川奈つぐみと再会し、いくつもの壁を乗り越えて心を通わせていくラブストーリーです。
物語は、2人が偶然再会するところからスタートします。互いに惹かれ合いますが、家族から交際を反対され、病気やケガなどの問題に直面。大切な人を幸せにしたい、支えたい、という思いとは逆に、時に相手を傷つけたり、自分の気持ちに素直になれず、すれ違ってしまいます。そうした2人は未来に向けてどんな決断をするのでしょうか。
どんな状況にあっても、誰にとっても、「幸せとは何か」を問いかけるラブストーリーに仕上げられています。

TVドラマ「パーフェクトワールド」

  • 出演 松坂桃李 山本美月
       瀬戸康史 中村ゆり 松村北斗(SixTONES) 岡崎紗絵
     木村祐一 堀内敬子 麻生祐未松重豊
  • 原作 有賀リエ「パーフェクトワールド」(講談社「Kiss」連載)
  • 脚本 中谷まゆみ  音楽菅野祐悟  プロデューサー河西秀幸
  • 演出 三宅喜重 白木啓一郎
  • 制作著作 カンテレ


松坂桃李さんが、役づくりを深めるため障がいを抱える人たちの“思い”に触れる「パーフェクトログ」に阿部一雄との対談が公開されています。
(動画サイズ:78.1MB)

映画「パーフェクトワールド
君といる奇跡」

©2018「パーフェクトワールド」製作委員会

前向きに生きる車いす生活の建築士と、彼を全力で支えようとするヒロインの繊細な心をリアルに描き、大きな反響を呼んでいる漫画『パーフェクトワールド』。映画は、EXILE/三代目 J Soul Brothersのメンバー・岩田剛典さんと、若手演技派女優として知られる杉咲花さんのW主演です。杉咲さん演じる、インテリアコーディネーターの川奈つぐみは、初恋の人である高校時代の先輩・鮎川樹(いつき)と仕事で偶然再会します。岩田さん演じる樹は、大学生の時に事故に遭い、車いすでの生活を余儀なくされましたが、夢だった建築士となり、仕事に打ち込んでいました。つぐみは再び樹への気持ちが募り、樹もつぐみに惹かれていきますが、「好き」だけでは乗り越えられない壁が、二人の前に立ちはだかります。大切な人と出会い、数々の問題に立ち向かいながら、絆を深めていく二人。どんな答えにたどりつくのでしょうか。
監督は柴山健次さん、脚本は鹿目けい子さんが務めています。

映画「パーフェクトワールド 君といる奇跡」

  • 出演 岩田剛典 杉咲花
       須賀健太 芦名星 マギー 大政絢
       伊藤かずえ 小市慢太郎 / 財前直見
  • 原作 有賀リエ「パーフェクトワールド」(講談社「Kiss」連載)
  • 監督 柴山健次  脚本鹿目けい子  音楽羽毛田丈史
  • 主題歌 E-girls「Perfect World」(rhythm zone)
  • 配給 松竹 LDH PICTURES
  • 制作プロダクション ホリプロ
  • ©2018「パーフェクトワールド」製作委員会

阿部一雄が
モチーフとなった漫画
「パーフェクトワールド」

障がいを持つ人の、
現実と思いを描いてほしい。

車いすに乗った建築士との恋を描く。この企画構想に合うモチーフが、阿部一雄でした。漫画が掲載される半年ほど前、講談社から連絡があり、ストーリー制作に協力することになりました。当時のことを阿部は振り返ります。
「初めは驚きました。女性向けの漫画ですし、車いすに乗った人物を描いて本当に漫画として成立するのだろうかと。一方で、それまでに私が観た、車いす生活者の登場する作品には、涙や同情を誘うだけでテーマ性の薄いものもあったので、障がい者の本当の気持ちに近い内容になればと考えたのです。障がい者には、当事者しか分かり得ない葛藤や悔しさがあります。同時に、その家族にも様々な苦しみや思いがある。健常者と障がい者の両方を経験した私には、どちらの現状もリアルに描いてほしいという思いがありました」。
企画に当たって、漫画家の有賀リエさんと講談社の担当の方が阿部建設に取材に訪れました。車いす生活者の体の特徴、心の葛藤、建築士の仕事‥様々な話をしました。映画化の際には、監督やスタッフの方々とも直接会い、障がいを持つ人の心身の状態や、社会の中で生きる覚悟などについて話をしています。

伝えたいのは、
困難に挑戦する勇気、
周りへの感謝。

原作者 有賀リエさんと阿部一雄

漫画の制作には、対面での取材に加え、細かな表現については電話やメールで何十回もやり取りを繰り返しました。そうして「物語の厚みや深み」を形づくり、単なる感動物語ではない、リアルさを追求しました。
たとえば、脊髄損傷を負った、主人公の鮎川樹が直面する現実。同じ体勢でいると、体重で圧迫されている部分の血流が滞り、皮膚の一部がただれたり壊死する「褥瘡(じょくそう)」が起こります。脊髄損傷を負うと感覚が麻痺するので痛みを感じず、重症化するまでなかなか気づくことができな いためです。漫画では、樹が仕事の正念場で褥瘡のため体を壊してしまいます。彼に思いを寄せるヒロイン・川奈つぐみがその現実を知るとともに、なんとしても仕事を完成させたいという樹の強い気持ちに寄り添って力を尽くすシーンが描かれています。
樹の仕事面でも、建築士である阿部のバリアフリーの考えが反映されています。樹がバリアフリー住宅を設計するとき、段差をゼロにするのではなく、あえて1、2センチの段差を残す提案をお客様にしました。「バリアフリー」といっても、すべてのバリアをなくさず、障がいの度合いに応じてバリアを残し、その人ができることをやり続ける大切さを唱える阿部の思想を、樹が語っています。
また映画では、脊髄損傷を負った場合の体の動きもリアルに表現されています。樹がつぐみに気づいて前のめりになるシーンは、撮影後、改めて撮りなおされたといいます。樹の体の状況では腹筋が使えず、その動作は現実的ではなかったからです。
「リアルではあるけれど、暗くならないところが漫画や映画の、それに制作者や演者の力ですね。決してネガティブではありません。音や動きの加わった映画はさらに力強い表現力を持ち、観る人への影響は絶大でしょう。スクリーンでの樹は想像以上でした。ひたむきに仕事に打ち込みつつも、心には苦悩や葛藤を秘めています。誰かの手助けなしには生きていけない現実、いつ起こるか分からない体の不調や症状の悪化、周囲から浴びせられる不躾な視線、そして大切な人が危険にさらされても見ていることしかできない無力感。それでも困難と向き合い、懸命に生きていく。車いす生活者の現実や思いを、岩田さんが樹という役柄を通して見事に表現してくれました。この作品から、勇気、挑戦心、感謝が伝わればと思います」。

心のバリアを取り除く、
建築士の仕事も伝えたい。

心のバリアを取り除く、建築士の仕事も伝えたい。

また、物語を通して、「建築士という仕事の魅力も伝わってほしい」と阿部は考えています。建築士は、まったく何もないところから建物という大きな形をつくる仕事。樹も、病院のベッドの上で必死にデザインパースを描いたり、クライアントとの打ち合わせで意見をぶつけたり、時に住宅の施主にアドバイスをしています。相手の思いや願いを聞き、それぞれに合ったものに仕上げていくそのプロセスこそが難しくもあり、やり甲斐にもつながります。
「取材協力の際に建築士として伝えたのは、家を設計する際に重視する“心のバリアフリー”。体だけでなく、心のバリアにも注目してほしい、ということです。車いす生活者と家族が暮らすと、お互いに相手を気遣うあまり、心にバリアが生まれがちです。実は、障がいを持つ本人より、車いす生活を優先しようと遠慮や我慢を積み重ねる家族の心のバリアの方が大きな問題なのです。双方がストレスを抱え込まないよう、話し合いを重ねて心のバリアを取り除き、理解し合うことが大切です。その上で、お互いに我慢をしないで暮らせる、心地よい家をつくります」。
障がいを腫れ物のように扱ったり、無理をしてはいけない。障がいは日常の一部といいます。

互いに助け合い、
安心して暮らせる社会へ。

多くのカップルにとって当たり前でも、樹とつぐみにはできないことがあります。手をつないでデートをしたり、段差のある場所へ一緒に行くことは難しいのです。
しかし、「障がいは不便ではあるけれど不幸ではない」と原作者の有賀さんも語っています。何の問題もなく、完璧な状態だからといって、必ずしも幸せなわけではありません。相手のためにできないことがあるからこそ、大切にしようと思えたり、できることが輝くこともあるだろう、と。
そして、恋愛ストーリーを通して、障がいをより身近に捉えてもらえるきっかけになればといいます。漫画の読者から「障がいを持つ人に対して、気にはなるけど接し方がわからない。けれども漫画を読むと、身近に感じる」という感想をもらったことがあるそうです。この物語によって、遠く感じていた距離が縮まればと考えます。
一方、阿部は障がい者が「特別な存在」ではないと強調します。

「私もそうですし、障がい者の多くは、できないことに誰かの助けを借りてでも『一人の人間として生きていきたい』『社会に貢献したい』と強く思っています。社会には必ず“弱者”がいます。誰もが突然障がいを負うことだってあります。弱者は特別な存在ではなく、障がい者も健常者も、子どもから高齢者まで、皆がともに助け合って安心して暮らせる社会であることを願います」。
タイトルの『パーフェクトワールド』の意味は、「大事に思う人、思ってくれる人がいてくれるだけで、世界(=人生)は完璧だ」。困難が続き、苦しさにのみこまれそうになっても、大事に思い合う人といくつもの壁を乗り越えた先に、「君といる奇跡」がきっと待っているに違いありません。

「私もそうですし、障がい者の多くは、できないことに誰かの助けを借りてでも『一人の人間として生きていきたい』『社会に貢献したい』と強く思っています。社会には必ず“弱者”がいます。誰もが突然障がいを負うことだってあります。弱者は特別な存在ではなく、障がい者も健常者も、子どもから高齢者まで、皆がともに助け合って安心して暮らせる社会であることを願います」。
タイトルの『パーフェクトワールド』の意味は、「大事に思う人、思ってくれる人がいてくれるだけで、世界(=人生)は完璧だ」。困難が続き、苦しさにのみこまれそうになっても、大事に思い合う人といくつもの壁を乗り越えた先に、「君といる奇跡」がきっと待っているに違いありません。

「パーフェクトワールド」の
ストーリーに共感した方へ。

「これまで障がいを持つ人と接する機会はなかったけど、漫画や映画を通して、もっと知りたいと思った」「相手の状況に合わせて家をつくる建築士という仕事に興味を持った」。そんな方におすすめなのが、映画原作である漫画に取材協力をした阿部一雄の著書です。「心のバリアフリー」を考慮した住宅づくり、バリアフリーコーディネーターという役割、仕事のあり方などについて、車いす生活の視点から綴っています。また、実際にバリアフリー住宅をつくったご家族の事例も紹介され、あらゆる人に分かりやすい内容になっています。車いす建築士の思いと実践を詳しく知ることができる一冊です。

木の家と太陽と車いす

発行 円窓社
著者 車いすの一級建築士 阿部一雄
本体価格 1,500円+税
取扱店 三省堂書店名古屋高島屋店、ジュンク堂書店名古屋店、ジュンク堂ロフト名古屋店、丸善名古屋本店、ちくさ正文館書店本店、ちくさ正文館ターミナル店、金城堂他、全国の書店で販売中